こどもの感染症は、急に起きるのでとても心配で、親御さんの不安も大きいものです。
発熱、咳や鼻水などの上気道症状、腹痛や下痢などは、ほとんど何かの感染によるものです。
そういった感染症の原因は、①ウイルス・②細菌・③真菌に分けられます。
① ウイルス
ウイルスとは空気中の微生物で、人間や動物の体に侵入すると中で増殖します。
そうすると人間や動物の生体本来の各器官の働きを邪魔して、その結果として呼吸器症状や消化器症状などを引き起こします。インフルエンザやcovid-19でおなじみですね。
ウイルス(virus)
ウイルスは細胞を持たず、基本的にはタンパク質と核酸からなる粒子です。細胞がないため単独では増殖できず、他の生物の生きた細胞に寄生(感染)して増殖します。
抗菌薬は細菌には効きますが、ウイルスには全く効果がありません。ウイルスは人の細胞に寄生しているため治療が難しく、予防のためのワクチンだけが頼りです。
感染症の中で頻度が最も多いのはウイルス感染ですが、使用可能な抗ウイルス薬は限られています。
水痘ウイルス、コロナウイルス、インフルエンザウイルスに対する薬剤は開発されており、こどもに使用できるものもあります。
しかし、こどもの感染症で最も多い、いわゆる「風邪」すなわち軽症ウイルス性上気道炎の原因ウイルスは、エンテロウイルス、RSウイルス、ライノウイルスなどで、これらに対する抗ウイルス薬はありません。
つまり「風邪に根本的な治療薬はない」のです。
抗ウイルス薬がなく、しかも軽症で、自然治癒が見込まれるものは、厳密に言うと医学的な治療対象ではありません。
実際にアメリカの小児科では、ウイルス性上気道炎で自然治癒が見込まれる軽度なものは「医療の適応ではない」として、診療されない場合もあります。
患者さんはドラッグストアに行って、市販の「感冒薬」をこどもに与えます。しかし近年、市販薬に含まれている成分により症状が重篤になる例が相次いだことがありました。
そうした事例を受けて、アメリカでは市販薬成分の規制が厳しくなりました。
では軽症ウイルス性上気道炎(感冒-風邪)は放置してよいのでしょうか。
日本の医療機関の多くは鼻汁や咳に対しての治療を行います。これは対症療法ですが、症状を緩和させることで患者さんを楽にして、自然な治癒を助ける効果があります。
私はつねづね、患者さん自らが持っている自然治癒の力を引き出して、快癒に向かう手助けをしたいと思っています。
具体的に言いますと、私たちが風邪をひいたとき、熱が出ます。水分を摂ってじっと待ちます。
すると、薬を使わなくても体が自然にあったまって汗が出てきます。この「体が温まって汗をかく」ことが治癒過程なのです。
体は外から温めてはいけません。厚着をしてもいけません。普通に楽にしていると、自分の中で治癒する力が発現してきます。
それを助けるのが漢方薬です。
私はインフルエンザに麻黄湯という漢方薬がどのように作用するのか、疾患モデルマウスを作成して研究を行いました。
ヒトに微生物が感染すると炎症が起きて、すると次にはそれを抑えるような作用が働いていきます。
体が異物である微生物を撃退しようとするわけです。これを免疫応答といいます。
炎症と免疫応答に複雑な経路があります。この中でプロスタグランジン系とロイコトリエン系という二つの炎症経路を私は取り上げました。
インフルエンザウイルスに感染すると炎症経路のうちの複数個所の活性が増強するのですが、麻黄湯投与によりそれらの活性が沈静します。
つまり、漢方薬は体の複数個所に作用して全体として炎症を抑え、治癒を促進するのです。
インフルエンザ感染モデル動物も麻黄湯投与によりいったん体温が上昇し、それから軽快します。
ヒトでの経過とよく似ていました。「体が自然に温まり汗が出て治る」この過程を漢方薬が促進していることが証明されたのです。
実際にインフルエンザにかかってしまったときは、「ぶるっと来たら麻黄湯を飲む」ことをお勧めします。
ごく初期に内服すると最大限の効果があります。
インフルエンザの治療では、漢方薬に加えて抗ウイルス薬が有効です。
できれば1回投与(内服ないし吸入)で済む薬が良いでしょう。なお、以前インフルエンザ脳症という病気が大きな問題となりました。このとき、脳症を発症した患者さんのある群で非常に強力な解熱剤が使われていることがわかりました。
それ以降、この解熱剤は使用されなくなり同時にインフルエンザ脳症も急激に減少しました。現在はアセトアミノフェンという安全性の高い解熱剤が多く使われています。
ほかのウイルス性上気道炎に、いわゆる「夏かぜ」があります。熱が出て、喉が痛くなって喉に粘膜疹が多数出る疾患ではヘルパンギーナが有名です。
これはエンテロウイルスによるもので、抗ウイルス薬はありません。基本的には水分を摂取してじっと待つことになりますが、漢方薬の小柴胡湯加桔梗石膏が喉の痛みと炎症をとることに有効です。
RSウイルス感染症も時々流行します。年長児や成人では単なる「鼻かぜ」ですが、乳児と高齢者では重くなることがあります。
このウイルスにも抗ウイルス薬はありません。対症療法が主体ですが、早期診断・早期治療が必要です。
早期の麻黄湯投与が有効なことがあります。
② 細菌(bacteria)
細菌(バクテリア)は、ウイルスと違って細胞があるため自分の力で増殖します。
栄養があって一定の条件がそろえば増殖できるので、生物以外のもの、たとえば調理後の食品内で増殖して食中毒を起こすのも細菌のいたずらです。
細菌による感染症の多くは、抗菌薬を投与することで症状を抑えることができます。
ペニシリンなどの抗菌薬は、細菌の細胞膜の形成を邪魔して細菌を育たなくする働きがあります。
腸内細菌や発酵細菌、病原菌など、ヒト(人間)をはじめとする他の生物との関わりが深いものがたくさんあります。
通常、ヒトなどの大型生物は、何百万もの常在菌と共存しています。例えば腸内細菌群は、多くの動物において食物の消化過程に欠かすことのできない要素です。
その腸内細菌叢(マイクロバイオーム)はヒトと共生して、人の生存に必要な様々役割を果たしています。マイクロバイオームを整えることが健康にとって重要です。
一部の細菌は時にヒトの病気の原因となります。肺炎球菌やヘモフィルスインフルエンザB型は細菌性髄膜炎や敗血症といった重篤な疾患を引き起こします。(現在、こうした疾患はワクチンの普及により激減しています。)
ほかに、肺炎を起こすこともあります。また、よくみられる疾患としてA群溶血性連鎖球菌による咽頭扁桃炎があります。
これは学童で時に小流行があります。A群溶連菌が喉の粘膜に感染すると強い炎症が起きて、痛みが発生します。粘膜に出血斑がみられる場合もあります。
治療は抗菌薬を使います。細菌を死滅させるためです。
ただし、抗菌薬を使えば必ず腸内細菌叢が変化します。長期投与は避けるべきです。
③ 真菌(カビ)
真菌はカビの仲間の総称です。このうち人体に感染症を及ぼす真菌としては、白癬菌、カンジダ、アスペルギルス、クリプトコッカス、ムコールなどが有名です。
真菌には、酵母のようにアルコール飲料や味噌、チーズなどの酪農品製造に欠かせない有用なものも多くありますが、中には上記のようにヒトをはじめ種々の動物や果樹、穀類あるいは野菜などに悪影響を与える病原菌もあります。
真菌症(しんきんしょう)英: mycosis とは、外部の真菌あるいは常在する真菌類がヒトや脊椎動物の組織内に侵入し、異常に増殖して発症する疾患です 。
代表的な真菌症として白癬菌による白癬(水虫、たむし、およびしらくも)やカンジダによるカンジダ症、クリプトコックスによるクリプトコックス症、アスペルギルスによるアスペルギルス症などが知られています。
こどもの疾患では「おむつかぶれ」が真菌の仕業です。抗真菌剤を使うこともありますが、清潔と乾燥で改善する場合もあります。
カビによる感染症は、カビが皮膚に浸透する深さによって変わってきます。最も身近で、皮膚表面にカビが付く表在性真菌症の代表は、白癬菌によるいわゆる水虫です。
他の、もっと深刻な真菌による感染症もありますが、免疫機能が落ちていると掛かりやすくなるとも言われます。