感染症とは
ある微生物がヒトに感染して症状をもたらすものが感染症です。感染症の病態は微生物の病原性とヒトの反応の二つの面から考えることが良いとされます。ある微生物が感染した場合、子どもとおとなでは、その症状は異なります。年齢によって症状も重症度も変わってきます。成人では風邪で済むものが、生後1か月の乳児では重症になるかもしれません。
乳児の発熱
乳児は感染に対して脆弱です。生後3か月までは感染症が重症化する可能性があります。生後3か月まではできるだけ人混みへ外出しないほうがい良いでしょう。この月齢までに発熱したら詳しい検査が必要です。場合によっては入院することになるかもしれません。生後3か月までに発熱したら、かかりつけ医に相談しましょう。
かかりつけ医が見つからない場合、あるいは子ども連れでの外出が大変であるときは、オンライン診療を利用することもできます。その場合、オンライン診療には厳密な前提が必要です。それに関しては別にお伝えします。ちなみに、生後1か月でのお宮参りはお勧めできません。お宮参りと百日祝い(お食い初め)を一緒に行ったほうがよいと思います。乳児の安全という点だけではなく、母親の体力の回復という点からも、そのようにお勧めします。
乳児へのワクチンが普及する前まで、重症感染症で死亡する児は多かったのです。かつては世界中で乳児は簡単に死亡していました。現在の日本では乳児へのワクチンの普及により、細菌性髄膜炎などの重症感染症はほとんど見られなくなりました。ですから、今ある定期化されている乳児のワクチンはすべて接種することが、赤ちゃんを守るために必須です。
救急受診の目安
急な発熱、咳がひどい、吐いているなど、特に夜間、病院が閉まった後での救急受診の目安は何でしょうか。まず、迷ったら相談することです。各地域での救急対応がありますので、そこに電話で相談できます。番号は全国共通で「#8000」です。必要とあれば、適切な受診先を案内してくれます。もちろん、かかりつけ医を受診できるなら、そうしましょう。
その時に、医師に伝えるべきことは、発熱の経緯・水分をとれるか、食欲はどうか、ミルクの飲み具合はどうかなどです。そして最も大切なことは、呼びかけへの反応がいつもと同じかどうかです。どのような疾患でも重症であれば、意識レベルが低下します。意識レベルの低下とは、とくに子どもの場合「反応が悪い」ということにつきます。ここをまず押さえておきましょう。
感冒
さて、よく見る感染症を簡単にご紹介します。まず、「感冒」つまり「風邪」ですが、感冒の定義とは何でしょう?それは「ウイルス性上気道炎」と言えます。些細なことのように思われますが、このことは実は大事であると私は考えています。例えば「風邪なんですがいつも痰が絡みます」とおっしゃることがあります。この場合、痰が絡むのは気管支炎の症状であり、感冒は上気道炎ですから、つまりこれは風邪ではないのです。風邪というと、本人も軽い症状で勝手に治ってしまうと思いがちですが、その点に注意が必要です。ちなみに、もしこうした症状を繰り返えしているなら、ゼイゼイしていないかどうかを確認します。ゼイゼイを繰り返していると、喘息かもしれません。また、「風邪をひきやすい」とおもわれていることが、じつはアレルギー性鼻炎のこともあります。
感冒の治療-漢方薬
感冒はウイルス性上気道炎であり、感冒の原因ウイルスに有効な抗ウイルス薬はありません。したがって治療は対症療法に限られます。症状を軽くしている間に、自分の免疫力で回復することを目指します。また、感染症で鼻汁が出るのであれば、抗ヒスタミン剤投与には、あまり意味はありません。ここで、有効な治療は漢方薬です。
症状や状態に合わせて、様々な漢方薬が使用できますが、どのような漢方薬もヒトの免疫能を増強させます。とくに感染症罹患時に効果を発します。
子どもで水分が取れて元気がよければ、麻黄湯が代表的なものです。麻黄湯は複数の機序で免疫増虚作用があることがいろいろな研究で示しされています。気道感染では年長児・成人では葛根湯がよいこともあります。一方、吐き気や下痢の「お腹の風邪」では五苓散が有効です。五苓散は細胞膜アクアポリンという水チャネルの働きを調整し、体内の水分の移動を制御します。つまり、むくみが取れるわけです。嘔気があるときの消化管の動きの回復を助けます。のどが痛いときは桔梗湯、桔梗石膏、小柴胡湯加桔梗石膏がよいでしょう。
漢方薬は飲みにくいと思われるかもしれませんが、単シロップに混ぜる(薬局で処方してくれます)、あんこ・黒蜜・ココア・チョコレートアイスなどと混ぜることも有効です。
ちなみに、薬を与えるときは、必ず子どもに薬を飲む訳を話して、納得させてからにしましょう。たとえ赤ん坊でも、自分の体の回復に有効だからと話しかけて飲んでもらうことが、薬の効果を上げます。
新型コロナウイルス感染症-COVID-19
あのコロナ渦の始まりの時のような流行ではありませんが、COVID-19はいつでもだれでも罹患します。もはや、特別な疾患ではなく、いつ自分がかかってもおかしくないものです。以前のような重症化は少なくなったとはいえ、大変に厄介な問題がります。それは後遺障害です。
罹患後に疲れやすい・頭が働かない・咳が長引くなどの症状がみられることがあります。後遺障害を発症するかどうかは事前に予測は不可能です。また、その重症化も予測できません。そこで、早期発見と早期治療が重要になります。新型コロナウイルスには抗ウイルス薬があります。早期治療により、後遺障害の程度を軽くする、発症を防げることが期待できます。つまり、COVI-19は治療可能であり、抗ウイルス薬を使用するべきです。インフルエンザにかかると、みな抗ウイルス薬を使用しますね。それと同じですが、まだ抗ウイルス薬の使用頻度は少ないものです。外来で使用できる抗ウイルス薬には、ゾコーバがあります。ただし、使用には年齢制限と併用禁忌があるので注意が必要です。担当医師とご相談ください。
また、漢方薬が有効なことがあります。葛根湯、小柴胡湯加桔梗石膏は抗ウイルス薬出現前からずいぶん使われました。今でも使われています。抗ウイルス薬との併用も可能です。なお、先の後遺障害にも漢方薬が有効な場合があります。補中益気湯などはその代表的なものです。鼻腔の奥を洗浄するBスポット療法も効果的と言われます。
新型コロナウイルス感染症は、通常はのどの痛み(これは激しいことが多いです)、かなりひどい倦怠感、発熱が典型的な初期症状です。しかし、症状だけでは判断は困難です。確実な診断には核酸検査が有効です。今は短時間で確定できる機器もありますが、保険適応の問題などもあり、使用可能な施設は限られているのが現状です。
インフルエンザ
インフルエンザに一度罹患するとそのつらさは記憶に残ります。高熱・筋肉痛・関節痛・だるさなど、また子どもではさらに不機嫌になり、稀ですが重症化もすることがあります。 対策はまず、ワクチン接種です。
ワクチンで罹患を完全に防げるわけではないのですが、軽く済みます。また、かかったかもしれないと思ったら早期に受診することです。迷うなら受診してください。診断には抗原診断キットがありますが、発症早期ですと診断できないことがあります。核酸検査も可能なのですが、保険診療上の制限があります。周囲での流行があって、自分も同じ症状なら抗原診断は必ずしも必要ではありません。症状で医師が診断します。
治療は抗ウイルス薬を使います。一回投与のものが使いやすいと思います。家族内感染の予防も可能です。抗ウィルス薬は90%程度有効であるとされます。しかしこれは保険適応ではなく、自費での診療となります。
なお、ワクチンには点鼻もものもあります。日本でも点鼻の生ワクチンが使用可能となりました。鼻にスプレーを吹き付けるものです。痛くありません。効果も期待できます。年齢制限(2歳以上、19歳未満)があり、また自治体による補助は従来の注射のワクチンと異なる場合がありますので、ご注意ください。
鼻咽頭検体の採取法
コロナやインフルエンザの時、鼻の奥に綿棒を入れて検査します。これは、なかなか嫌なものです。綿棒が近寄ってくると緊張します。私はこの検査の時には、まず、患者さんに肩を上下して、深呼吸してもらいます。リラックスしたところで、鼻の根元を自分の指でマッサージしてもらいます。すると、鼻腔が広がった感触があります。さらに、鼻の穴を広げてもらいます。この時は向かい合って一緒にやってみます。「奥から広げる意識」を持てるといいです。そして綿棒をゆっくりと挿入し、軽く掻爬して素早く抜きます。すると、思っていたよりも楽にできます。