2025.06.19

話題の感染症-百日咳、マイコプラズマ感染症、A群溶連菌感染症など

百日咳

現在、百日咳の流行が拡大しており、マクロライド耐性菌が増加していると言われます。重症例の報道もあり、ご心配される方も多いと思います。ここでは、百日咳の問題点を簡単に述べます。

まず、百日咳の患者数ですが、2018年以降増加しています。報告による調査ですので、幾分バイアスがかかるのですが、それでも実際に増加していることは事実と思われます。2025年の流行拡大が懸念されています。

さて、この流行で何が問題なのでしょうか。最大の問題は、ワクチン未接種の乳児の重症化です。ワクチン未接種の乳児が罹患すると最悪の事態も懸念されます。乳児への感染源は、診断されていないで発症している年長児や成人のことが多いとされます。ワクチンをすでに接種している年長児、成人では典型的な症状とならないことが多く、症状からの診断が困難です。多くは、咳が長引いている、せき込んでいるといった症状です。その間にワクチン未接種乳児への感染源となりえます。

百日咳の典型的な症状は、発作性けいれん性の咳(痙咳)です。ただ、乳児では特徴的にならず、息を止めるような発作と顔色不良となることがあります。百日咳の初期は通常の感冒と区別がつきません。また、痙攣性の咳が始まっている時期には抗菌薬治療の効果は限定的です。このように、百日咳の問題点は以下の3点があげられます。

  1. 初期には診断不可能。
  2. ワクチン未接種乳児での重症化。
  3. 年長児、成人では非典型的症状であり、診断は困難。

この時点での対策は、乳児期に早期にワクチンを接種することです。現在、生後2か月から百日咳ワクチンを含む5種混合が接種可能です。可能な時期になり次第早期に接種します。また、咳が長引く人の前に乳児を出さないことです。成人、年長児で咳が長引いている場合、特に周囲にワクチン未接種の乳児がいる場合、百日咳の可能性を考えて対応をしたほうがよいでしょう。確定診断には核酸検査(PCR)が有効なのですが、保険診療内での規制があり、それほど多くは普及していないのが現状です。

新生児への感染を防ぐ方法としてコクーン(繭)戦略といって、新生児を取り囲むご家族・妊婦さん自身が百日咳ワクチンを接種する方法があります。赤ちゃんを繭でくるんで守るという意味でこう名付けられています。欧米で推奨されています。日本では三種混合ワクチンのひとつトリビック®に、全年齢での適応が認められています。ただ、添付文章では「妊婦又は妊娠している可能性のある女性には予防接種上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ接種すること。」と記載されています。接種に際しては、かかりつけ医との相談が必要です。

現在の乳児期でのワクチン接種のスケジュールでは、免疫の減衰があり、年長児・成人では乳児期にワクチンを接種していてもり患してしまいます。欧米ではワクチンを年長児に追加接種する方法がとられています。日本においても、ワクチンの追加接種が望まれます。

百日咳の抗菌薬耐性の問題ですが、従来第一選択とされていたマクロライド系抗菌薬への感受性低下が問題となっています。この感受性低下は、重症となりうる乳児への治療に際して特に問題です。耐性菌に対する抗菌薬選択に関してはST合剤の使用が推奨されています。しかし、ST合剤(バクタ)は、一般的な使用経験は少ないものです。一般の外来診療で問題となるのは、家族内に百日咳患者さんが発見された時の対応です。この場合、感染予防のために抗菌薬投与が推奨されるのですが、その時の選択薬剤をどのように考えるのかは、今のところ定見はありません。まず、ご家族内で感染が確認されたら、乳児への接触を避けることが最優先でしょう。また、長引く咳の際には百日咳感染を考慮した診療が必要です。

現在の乳児期でのワクチン接種のスケジュールでは、免疫の減衰があり、年長児・成人では乳児期にワクチンを接種していても罹患してしまいます。欧米ではワクチンを年長児に追加接種する方法がとられています。日本においても、ワクチンの追加接種が望まれます。

マイコプラズマ

マイコプラズマ感染も時に流行が話題取ります。地域での流行がみられることもあり、確定診断が難しいことが問題です。また近年は耐性菌の問題も出ています。

マイコプラズマは細胞壁を有さないため、他の細菌に有効なβ-ラクタム系抗菌薬は無効です。マクロライド系やキノロン系抗菌薬が有効なのですが、そのマクロライド系抗菌薬への感受性が低下した菌の増加が指摘されています。耐性率には地域差が見られます。しかし、選択抗菌薬としてマクロライド系は重要な位置にあります。「耐性菌」という言い方は、あたかも治療失敗を招くように受け取られますが、薬剤耐性という概念は細菌学や薬理学といった基礎研究からの視点であり、正確には「感受性低下」と記載するべきです。臨床的には、薬剤感受性が必ずしも治療失敗と直結するわけではないことは留意が必要です。ただし、マクロライド系抗菌薬を使用しても48~72時間以内に解熱が見られない場合は、抗菌薬の変更を検討するように推奨されています。その場合の選択抗菌薬にはるニューキノロン系抗菌薬やミノサイクリンがあげられます。しかし、ニューキノロン系は頻回の使用は避けるべきであり、ミノサイクリンは小児への歯牙黄染の副作用があります。(歯の色素沈着であり、回復しません。)初期への反応不良の際には、様々な観点からの対応が必要でしょう。

A群溶連菌感染症

A群β溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)による感染症です。小児から成人までり患します。稀ですが、壊死性筋膜炎や劇症型溶連菌感染症など重症感染症もきたします。
咽頭炎,扁桃炎は発熱,咽頭痛,頭痛などで発症することが多いのですが、嘔気・嘔吐,腹痛なども伴うこともあります。おなかが痛い、のどが少し赤い、溶連菌感染症だった、問うことはよく見られます。淡い発疹が出ることもあります。周囲での流行もよく見られます。

治療にはβラクタム系抗菌薬を使用します。私はセフェム系を使用した短期療法(一日2回内服、5日間)がよいと考えています。ペニシリン系抗菌薬10日間投与が標準とされているのですが、ペニシリン系でもAMPCは広域抗菌薬であり、それを10日間という長期内服は、小児の身体・腸内細菌叢にもかなりの影響を及ぼすと思われます。短期療法の有効であり、子どもと親御さんへの負担も少ないものです。なお、A群溶連菌感染症で問題となるのは、その合併症です。急性糸球体腎炎、リウマチ熱などがあります。頻度は少なく、また必ずしも明確な選考感染がない例もあるのですが、留意が必要です。

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このコラムの著者

院長 黒木春郎

1984年千葉大医学部卒業、2005年6月に外房こどもクリニック(千葉県いすみ市)を開業、2008年医療法人嗣業の会を設立、理事長に就任。

2023年4月から同法人を移転し、「こどもとおとなのクリニック パウルーム」(東京都港区)を開業。

医学博士 / 千葉大学医学部臨床教授 / 公認心理師 / 臨床発達心理士 / 子どもの心相談医 / 出生前コンサルト小児科医 / 医師少数区域経験認定医師 / 日本小児科学会 専門医 指導医 / 日本感染症学会 専門医 指導医 評議員 / 日本遠隔医療学会 理事